『ガンダムAGE』と『サンライズAGE』

早くも話題沸騰賛否両論喧々諤々な『機動戦士ガンダムAGE』ですが…。
「AGE=エイジ」繋がりで思い出した、幻のアニメ情報誌『サンライズエイジ』について書いてみる。

487465634Xサンライズエイジ (GEIBUN MOOKS 388)
芸文社 2003-05-10

by G-Tools
実はこれ「創刊号」で、巻末には2号の予告も掲載されていた(確か同年8月発行予定だったと思う)。しかし、結局2号は未だに発行されていなかったりする。


数年前に創刊されて大ヒットしていた角川書店の『ガンダムエース』に対抗もしくは便乗したのか。その名の如く「アニメ制作会社・サンライズ」をフューチャーした内容で、歴代のサンライズ作品の紹介や、サンライズ作品を手掛けた監督陣(富野由悠季高橋良輔神田武幸福田己津央)の経歴が掲載。他にも『太陽の牙ダグラム』と『勇者王ガオガイガー』は特集記事という具合。


そして、当時放送されていたサンライズ作品の代表として巻末特集されていたのが、物語が後半に差し掛かり盛り上がりを見せていた『機動戦士ガンダムSEED』だった。
しかも、特集の冒頭には洒落にならないほど刺激的で挑発的なコラムが掲載されていたのだ。
題して「機動戦士ガンダムSEED』は、あなたに戦争を仕掛けている」。


このコラム、読んだ人(そんなに多くないんだろうな)にとっては相当印象に残っているらしく、ネットでも定番コピペの如く扱われているので、以下に転載してみる。まずは前半部分…

機動戦士ガンダムSEED』は、あなたに戦争を仕掛けている。
あなたとは、誰か。
あなたの事である。つまり、ファーストガンダムを見、ガンプラを作って育ち、ガンダムに対して普通以上の愛着を持っていながら、しかしSEEDは見ていない。
そしてSEEDに対して無意識的に、あるいは意識的に反感を抱いているあなたの事である。(そうでない心広い人には、ここから先の話は意味がないかもしれない)
どういう意味か、これから説明する。


ガンダムSEED』は、9・11テロに代表される現代戦に着想を得て書かれている。
現代の紛争を最も特徴付けているのは、それがイデオロギー同士の衝突であるという点だ。
極端な民主主義や、宗教における原理主義。 そういった排他的イデオロギーの火薬庫にある日火がつき大爆発を起こす。
己が信じ属する物が絶対であり、それ以外は認めない。そういった抜き去り難い人の心性が現代の戦争の根底に存在する。
ガンダムSEED』におけるプラントという共同体は、ある種のエリート主義、民族主義によって成り立っている。
また、地球側陣営にも「ブルー・コスモス」と言う、現在も根強く活動を続けている選民思想者たちが登場する。
何故人は、互いに「ちがい」を認め合えないのか。何故自分の信じるものを他人に押し付けずにはいられないのか。
何故自分と異なる思想で生きる者を恐怖するのか。
何故多様性を認められないのだろうか。『ガンダムSEED』はそこをテーマにしている。
主人公キラはそういうむなしい非寛容と戦おうとしているのである。

『SEED』の対立軸であるナチュラル(ブルー・コスモス)とコーディネイター(プラント)を、9・11テロの元凶であるイスラム原始主義者に準えて論じている。
そして後半ではより具体的かつ挑発的な内容へ…

さて。ところで世間には「ファーストガンダム原理主義者」というものが明らかに存在する。
ファーストの体験があまりにも圧倒的であったがゆえに、ファーストガンダム、あるいは富野ガンダムが規範として絶対化してしまい、そこから逸脱するものを容認できなくなってしまった人達の事である。


『SEED』制作の発表当時、主にネット上で起こったバッシングの嵐は、それはそれは苛烈な物であった。
別に『SEED』スタッフは、ファーストガンダムを否定したわけでもなんでもないのである。ただ「こういう新しいガンダムを提案しますがいかがですか」と言っただけなのだ。
なのに挙がった声は 「否!」「否!」「否!」。
これを原理主義的排他性と言わずしてなんと言うべきだろうか。


そう言えば「今回はガンダムが10機出ます」と言うアナウンスがされた時に挙がった声も非常に示唆的であった。
ガンダムはただ1機の絶対的、象徴的存在であるべきだ」という主張がそこかしこで聞かれた。一歩下がってみれば多様性の容認と、一神教原理主義との対立そのものではないか。


もうおわかりだろう。『ガンダムSEED』は、「非寛容と戦う」と言うドラマを選択した事により、「結果的に」ファースト原理主義と真っ向から戦争する作品になっているのである。
勘違いして欲しくないのだが、これはあくまでも結果的にそうなったのである。
福田監督以下製作スタッフが、意図的にファースト世代に戦争を仕掛けたわけではない。現代性のある作品を作ろうと彼らが努力したことで自然にそうなってしまったのだ。
言うなれば、時代というものが彼らにその道を進ませたのだ。


ガンダムSEED』という作品はあなたにビームサーベルの一太刀を浴びせる為にこの世に出現したのだ。だからあなたは見なければいけない。
あなたを挑発し、あなたの敵として立ちはだかるかもしれない
この恐ろしい作品を。

「『SEED』が叩かれた主な原因は作品自体が…」というツッコミは基本ね。
でも、「こういう新しいガンダムを提案します」と言った傍からファーストガンダム原理主義者、否、「既存のガンダムファン」から猛バッシングされるというのは、今回の『AGE』でも同様。言わばガンダムシリーズにおける通過儀礼みたいなものか。
あと、このファーストガンダム原理主義者を揶揄したコラムは、彼らをメインターゲットにしている『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』(及び、それを看板作品にしている『ガンダムエース』)への対抗意識が見え隠れしている。


「創刊号」から8年が経った今、『エイジ』の名を冠したガンダムが始まろうとしている今だからこと、『サンライズエイジ』の2号が出て欲しいなぁ…