『スラムダンク』覚書

1996年の連載終了から15年経つというのに、今なお根強い人気を誇る『SLAM DUNK』。
先日も、ネット上でこんなコラムが掲載された。

■タブーだった『SLAM DUNK』の人気の秘密
1990年から『週刊少年ジャンプ』で連載されていた『SLAM DUNK』は、コミックスの累計発行部数1億冊を突破したバスケマンガの金字塔。歴代最高部数653万部を記録してギネスブックにも登録された“ジャンプ黄金時代”を支えた作品の一つである。


そんな大人気マンガは連載スタート前に、「ヒットしない可能性」を指摘されていた。単行本31巻のあとがきによれば、「『バスケットボールはこの世界では一つのタブーとされている』と編集者から何度も聞かされた」とか。そんな“常識”を打ち破り、大ヒットを飛ばした『SLAM DUNK』の魅力に迫ってみたい。

4990412621スラムダンク『あれから10日後-』完全版
井上 雄彦
フラワー 2009-04-10

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バスケ漫画はヒットしない」というのは割りと有名なジンクスだったらしい。
著者の井上雄彦先生は2000年頃にNHKトーク番組『トップランナー』に出演した際にも「バスケ漫画として難しくなった場合は、学園漫画にしようと考えていた。そのため、最初はバスケシーンと学校シーンを半々で描いていた」と語っている。
そして「バスケ一本で描けると思ったのは湘北バスケ部のメンバーが揃った辺り」とも語っていた。
メンバーが揃った辺りとは即ち、宮城リョータ三井寿が登場した辺りかと思われる。


というワケで今回は、その辺を中心につらつらと書いてみる。


僕が『スラムダンク』を最初に読んだのは連載2話目あたり。主人公の桜木花道とライバルの流川楓が屋上でファーストコンタクトを果たし、成り行きで大喧嘩をしてしまうという話。この話ではバスケ要素は絶無で、扉絵で花道と流川がバスケットボールを持っているのを見て「これはバスケ漫画…なのか?」と思った次第。


その後、花道がバスケ部に入部して、ゴリことキャプテン赤木剛憲と揉め事を起こしつつ練習をこなしてゆく。この頃は「不良キャラがバスケに悪戦苦闘」という要素が中心。他作品で例えるなら『ろくでなしBLUES』におけるボクシング話のような感じかと。
話は反れるけど、序盤に出てきた「赤木は県内屈指の選手」とか「安西先生は元全日本の選手」という設定も、最初は「弱小校で奮闘しているバスケの上手い選手」とか「バスケに詳しい大人」程度の意味合いで出てきたのかもしれない。


やがて初の本格的なバスケ話となる陵南高校との練習試合を経て、リョータと三井が登場。
察するに、この頃にはもうバスケ一本で行こうとしていたんだろう。レギュラーメンバーを「花道+一流選手4人」にする必要があって、既出の流川(チーム内のライバル)・赤木(チームのキャプテン=兄貴分)に加わえて、リョータと三井を「補強戦力」として登場させたと思われる。
せっかくバスケ漫画で行こうとしても「戦力に恵まれず、県予選で一回戦敗退」なんて有り得ないし。


仄聞によると、井上先生は最初、三井を「バスケ部にケンカを仕掛けてきた、単なる不良」として登場させたという。それが描いて行くにつれて感情移入して、後付で「元バスケ部」という設定にして、メンバー入りさせたとか。
それを考えると、「自分を慕って弱小バスケ部の湘北に入学した上に入部早々の大怪我でバスケ部に出なくなったのみならず不良にまで成り果てた三井を、何年も無視し続けたダメ指導者」という安西先生への批判も、こんな後付設定により生じた矛盾ということか(以上余談)。


井上先生が意識していたのかは分からないけど…。「不良キャラ(それも一度は挫折した)が、バスケ部に入部(復帰)する」というのは、井上先生の胸中を代弁している気がする。
井上先生は、最初からバスケ一本で漫画を描きたかった。でも、「バスケ漫画はヒットしない」というジンクスのため、恐らくは望んでいないであろう学園漫画、否、「不良漫画」の要素を加えて描いていた。
それは一度はバスケを諦めて不良になった三井の姿とも重なるものがある。


そして、その「不良漫画」の沸点である三井のバスケ部襲撃エピソードを締めくくったのが、もはや説明不要の名言「バスケがしたいです」。
これは即ち、井上先生の「バスケ漫画が描きたいです」という意思表示であり、不良という過去を振り切ってバスケに挑む三井の姿は、不良漫画の要素を捨ててバスケ漫画一本で行こうとした『スラムダンク』という作品そのものなのかもしれない。


うーん、なんか大仰な内容になってしまった。他にももっと軽めなことを書きたかったんだけど。
それこそ「もしも『スラムダンク』が実写化されたら、花道役は例によって香○慎吾だろうな」なんて内容の。


まぁ、『スラムダンク』は漫画・アニメ共にリアルタイムでハマったクチなんで、また折に触れて書けたらいいな。