続『スラムダンク』覚書

こんな記事を見かけたので、再び『スラムダンム』についてつらつらと書いてみる。


■『SLAM DUNK』のキャラで最強チームを組むとしたら?(うるるんロギー)

B001AAZ4IMSLAM DUNK DVD-Collection Vol.3
TOEI COMPANY,LTD.(TOE)(D) 2008-10-21

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スラムダンク』を読んだ者なら、否、古今東西のスポーツ漫画を読んだ者が必ず一度は考える「ぼくがかんがえたさいきょうのオールスターチーム」。
激闘を繰り広げてきた強敵たちが仲間になって、新たな敵(主に海外の強豪)に立ち向かうのは、少年漫画的にもスポーツ好きにもこれ以上無いほど盛り上がるシチュエーション。その好例が『キャプテン翼』(第一期)の「Jrユース編」かな。
スラムダンク』もリアルタイムで読んでいた時は「全国大会編が終わったら、これまでのライバル達が高校選抜チームのような形で集まって、海外(つーかアメリカ)の強豪と対戦するんだろうな」とか「もちろん最大最強のライバルとして、マイケル・ジョーダンをモチーフにしたキャラが登場するんだろうな」なんて予想をしていたっけ。「それまでに、あと何年かかるんだろうかな」なんて心配もしながら。


でも連載は「全国大会編」、否、事実上は「山王工業編」をもって突然終了。
それが影響してか、上の記事でも様々な意見が交錯してカオス状態になっている。


スラムダンク』の全国大会編って、ライバルとして登場したはずのキャラが、殆ど活躍していないまま終わってしまったんだよなぁ。プロローグで最大最強のライバルになると予想されていた「名朋工業の森重寛」とか、彦一に要チェックされていた「大栄学園の土屋淳」とか。
全国大会編の一回戦で湘北と死闘を演じた豊玉も、最初は大栄学園に倒される「かませ犬」として登場したんだっけ。山王工業に続く三回戦で湘北をボロ負けさせた(とナレーションで語られる)愛和学園も然り。「愛知の星」こと諸星大は、初登場が森重のダンクで吹き飛ばされてタンカで運ばれるシーンだったし。


レストランに例えたら…店頭の食品サンプル(プロローグ)では美味しそうなメニュー(ライバル)が色々と並んでいた。でも、実際に店内(本編)に入ってみたら前菜(豊玉戦)とメインディッシュ(山王工業戦)だけだった。
そのメインディッシュは凄く旨くて満足だったけど、他のメニュー(ライバルとの試合)も味わってみたかった。あのメニューは本当は、どんな味だったんだろう…とあれこれと妄想している感じ。
そう考えると、全国大会編って物凄く勿体無い話だったし。プロローグと本編の間で何がしかの急激な予定変更があったのかもしれない。


井上雄彦先生がNHKの『トップランナー』に出演した時に「山王工業戦で終わることは、全国大会編の最初にトーナメント表を出した時点で決めていた」と言ってたっけ。この言葉がどこまで真実かは、本人ならざる身としては分らないけど、プロローグで出したライバルたちとの対決を描く替わりとして、「即席ラスボス」の山王工業を登場させたのかもしれない。


で、「さいきょうのオールスターチーム」に話を戻すと…。現実のオールスターならいざ知らず、フィクションでは「実力より存在感」で、ぶっちゃけるとキャラ人気が優先されるのがお約束。だから神奈川県予選での激闘が描かれた海南や陵南や翔陽のメンバーを入れたくなる。実力的には勝るであろう全国大会編での面々も、劇中での描写が乏しい分、優先順位は下がってしまう。


そして何より、この手のオールスターチームを考えたとしたら、真っ先に外されるのが主人公である桜木花道なんだよなぁ。主人公とはいえバスケ選手としては「不器用なりに馬鹿力と体力を活かしてに頑張っている素人(初心者)」なわけで。「主人公補正」でメンバー入りさせるにも無理があるし。
それは他の湘北メンバーも然り。実際に全日本ジュニア入りした流川楓は別として、赤木剛憲三井寿宮城リョータもメンバー入りできるか微妙。彼らよりも実力に勝る選手っているだろうから(というか、山王工業のメンバーがそう)。


湘北メンバーって個性派でアウトロー的な雰囲気が多分にあって、そんな彼らのストロングポイント(花道のリバウンド、三井のスリーポイントリョータのスピード)を組み合わせて強豪に勝利するのが、『スラムダンク』という作品自体の魅力なわけだし。
そんな湘北の面々が、言わば究極のエリート集団である全日本とかオールスターチームに入るのは、ちょっと違和感がある…と考えるのは僕だけかな。


そう言えば前述の『トップランナー』にて、『スラムダンク』終了の理由についてズバリ聞かれた井上先生が「花道はやっぱり…いや、作者が作品を解説するのはよくないと思うので止めておきます」と真相を語りそうになった場面があったっけ。
「花道はやっぱり…」の続きは、これもまた本人ならざる身としては分らない。


ただ、『スラムダンク』がバスケ物として好評を博して、物語の舞台もローカルな「県立湘北高校バスケットボール部」から神奈川県予選、そして全国大会へとスケールアップしてきた。それによって花道もジャンプシュートを覚えたりして素人から初心者、そして「普通のバスケ選手」へ成長しつつあった。
それは即ち花道の、そして『スラムダンク』の魅力である「素人のバスケ奮闘記」という要素が無くなること。花道が成長の末に辿り着くであろう「スーパープレイを連発する一流のバスケ選手」というポジションには既に流川がいて、キャラが被ることになるし。


「花道はやっぱり…スターや一流プレイヤーにならない、素人のままが良かったんです」
件の井上先生が語ろうとした『スラムダンク』終了の真相はこうだったんじゃないかと、勝手に想像している僕です。