ゲームクリエイターかく語りき6〜ハドソン『桃太郎』シリーズ・さくまあきら氏

ゲームクリエーターによる「ゲームづくりのコツ」のようなものを紹介してみる企画の6回目。


テキストとして使用する本は引き続きこちら。

487233907Xゲームセンター「CX」
太田出版 2004-12

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前回に続いて「企画者」のインタビューとして『桃太郎伝説』『桃太郎電鉄』でお馴染み、さくまあきら氏のインタビューを紹介。

B004D29GVKみんなのおすすめセレクション 桃太郎電鉄2010 戦国・維新のヒーロー大集合!の巻
ハドソン 2011-01-20

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元々さくま氏は出版社の記者で、「週刊少年ジャンプ」では長期に渡って人気を博してきた読者ページ『ジャンプ放送局』を手掛けてきた。
そのさくま氏がゲームクリエイターになった切っ掛けは…

有野ジャンプ放送局が切っ掛けで『桃太郎伝説』ができたんですか?
さくま:『桃太郎伝説』はジャンプ放送局やってる途中で作りましたね。
当時は『ドラゴンクエスト』とか『スーパーマリオ』とか、すごいファミコンブームで。「誰でもいいからゲーム作れる奴はいないのか」って。
僕らの間では学徒動員って呼ばれてて。「竹やりでもいいから持って来て」って言われて。
ドラゴンクエスト』を堀井雄二という作家が作っていて、その近辺に他にいないのかと探されてて。
大学時代の仲間だし友達だから作れるだろうっていう、いい加減な考えで(笑)。
有野:友達だから、ですか。
さくま:こっちも「そこそこ売れりゃ迷惑もかけないだろう」と。
堀井雄二が作っているのを横で見てて、楽しそうだなあ、と思っていたんで。
有野:作ってる現場にいたんですか?
さくま:いました。毎週一緒に遊んでて、堀井はしょっちゅうゲーム作りをやってたんで。
有野:素人の人に頼むって、すごいッスね。
さくま:そういう時代だったんですよ。
当時のことで未だに語り継がれてるんですけど、僕の書いた最初の企画書は3ページしか無かったんですよ。
有野:たった3枚ですか(笑)。大阪のロケ番組みたい。

堀井雄二の友達だから」という理由でゲーム製作の依頼を受けたさくま氏。
しかし、自作ゲームがエニックスのゲームコンテストに入賞する程のパソコンマニアだった堀井氏に対して、さくま氏は正真正銘の素人。
そんなさくま氏が『桃伝』を作るに当たっては、こんな裏話も…。

有野:ゲームを作るために、何か勉強されたんですか?
さくま:ハドソンの人も作ったことが無いから、分かんない訳ですよ。RPGってジャンルが初めてだったから。
どうしようと思って、「ちょっと友達に聞いてみるから」って電話して…。
有野:その友達っていうのは?
さくま堀井雄二(笑)。

今明かされる裏話!堀井氏は『桃伝』の製作に少なからず関わっていた!
それにしてもハドソンの人も「RPGの作り方が分からない」とは、当時はRPGの、否、ゲーム作り自体の黎明期だったのか。


で、続く『桃太郎電鉄』製作の切っ掛けは…。

有野:『桃太郎電鉄』はどうやって作ったんですか?
さくま:模造紙を買ってきて、自分で『桃鉄』を作って遊んでたんですよ。
有野ボードゲームとして?
さくま:スタッフに計算係までいたり、ルーレットのチップを買ってきてお金のやり取りをしたり、そのうち目的地についてお金のやり取りしたり、お金が出るはずが「計算式が間に合いません!」になっちゃって。
有野:計算が難しいから。
さくま:だったらハドソンに作ってもらおうかって、作ってもらっちゃったんだよね(笑)。
有野:自分がやりたいゲームをね(笑)。
さくま:プレゼンも模造紙に書いたゲームをやってもらった方が早いって、遊んでもらうことにして。
そしたら、「面白い!」ってみんなが言うんで、「コレだ!」って。
有野:じゃあ企画書なんか無い、と。「3枚の企画書」の次は「模造紙」(笑)。
さくま:いい加減ですね(笑)。それが切っ掛けですね。そっから2週間で作ったから。

こちらはさくま氏の方が「自分がやりたいゲーム」として企画持込をしたという。
こうして誕生した『桃鉄』の方が、RPGのノウハウが無くって苦労した『桃伝』よりも長寿シリーズになったのも、この経緯を知ると納得。


桃鉄』の名物と言えば、各地域の特徴を網羅した地図。その製作裏は…。

有野:地図を作る時に、何にこだわってるんですか?
さくま:実際にその町に行って、気に入ればヨイショするし、気に入らなければ外したり。
有野:ああ、名前も入らないし。
さくま:有名な場所は名前を入れとくけど、その周りは赤マス(止まると所持金が減る)だらけにしておくとかね。これ、しょっちゅうやってますね。
有野:それは自分で旅行した実体験で決めるんですか?
さくま:そうです。自分が現地に行って、食べて美味しいのが第一条件で、二番目に名前が面白いこと。
有野:美味しくなかったから入れなかったこともあるんですね。
さくま:あります。いっぱいあります。

旅行が趣味というさくま氏ならでは。まさに趣味と実益を兼ねたゲーム作りだ。

有野:カードもすごく多いじゃないですか。どうやって考えるんですか?
さくま:あれも長年システムを考えちゃあ、寝かしておいて。
「二軍システム」って呼んでるんだけど、二軍に置いといて何回も書き直しちゃあ、出してきて。
ゲームを発売するまでにもう一回考えて、やっぱり、今ひとつだなってカードは。また二軍落ちさせて完成していくんですね。
有野:二軍システムっていうのは、さくまさんの中のシステムなんですか?
さくま:そうです。自分の中でいろんなアイディアを溜めておいてるんです。
ゲームを作り始めた時にはあったカードでも、発売された時には無かったりね。
「もう一回頑張ってこい!」ってね。
有野:自分自身に(笑)。
さくま:そうですね(笑)。

アイディアを作ってはボツにして修正してはまたボツにして…の繰り返し。
さくま氏の「二軍チーム」には、多くのアイディアが虎視眈々と登場の時を狙っているのか。

さくま:『桃鉄』で面白いのは、落ちこぼれがヒーローになるんですよね。
地理を覚えるもんだから、勉強ができないゲーム好きな子が、『桃鉄』をやって地理で満点を取る。
お父さんも大喜びだし、本人も喜ぶし、先生も驚いちゃうでしょ。
落ちこぼれって、一つの教科がいいと他の教科もできるようになるのよ。
親が買っていいソフトの1位に選ばれたらしくて。
有野:PTAが選ぶソフトって、凄いですね。
さくま:結構、ギャグはヤバいのが多いんですけど(笑)。それが良いみたいで

面白くってためになる、『桃鉄』は素晴らしい教育ゲームだ!…と言いたいところだけど、さくま氏の言葉通り、ヤバいネタも多い。その一つが…。

有野:カードでう○こ撒いたりもするじゃないですか。何でですか?
さくま:少年ジャンプの3大要素に「う○ち・おなら・ゲロ」っていうのがあって(笑)。
この3つは、ジャンプの漫画の中で描くと、人気がぐーんと上がるんですよ。
有野:子供が笑うから(笑)。
さくま鳥山明が人気が低迷した時に、1週分の13ページに100個のう○ちを描いてきたんですよ。
そしたら、アンケート1位に返り咲いたんです。
有野:へぇー、そんな簡単なものなんですか。でも、う○ちネタ入れるの難しいっスけど(笑)。
さくま:入れるのは確かに難しいですけど(笑)、好きですね。

少年ジャンプの三大要素は「友情・努力・勝利」ではなく「う○ち・おなら・ゲロ」という衝撃の事実。
下ネタって、低俗だ下品だ言われてるけど、やっぱり鉄板ネタなのか。

有野ゲームクリエイターとして大事なモノは何ですか?
さくま:大切なのは好奇心ですね。何でも貪欲に取り入れて、作らなきゃいけないし。
またう○ちネタになっちゃうんですけど、良い映画を観て、良い音楽を聴いて、良い小説を読んで、それを食べ物にして、いいう○ちしろって。
良いモノを食ってないと、良いモノが出ないぞ、と


有野:最後に、さくまさんにとってゲームとは何ですか?
さくま:僕の生活そのものでしょうね。
旅に行ったらゲームが作れるわけだし、テレビを観たらそれがゲームになって返ってくるわけだから、最終的には色々なモノを吸収して出てくるモノ…って、う○ちになっちゃいまけどね(笑)。
やっぱり、ゲームはう○ちかもしれないですかね(笑)。

取り込んだモノを内部で消化して、最後に内部で作ったモノを出す。その意味では、創作活動と排泄行為は似ているのかも…。否、ちょっと違うような。


B0040ZOZVG桃太郎電鉄WORLD
ハドソン 2010-12-02

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