ゲームクリエイターかく語りき7(後編)〜『ポケットモンスター』シリーズ・田尻智氏

ゲームクリエーターによる「ゲームづくりのコツ」のようなものを紹介してみる企画。今回は7回目の後半ということで、引き続き『ポケットモンスター』の作者・田尻智氏のインタビューを紹介。


テキストとして使用する本は引き続きこちら。

487233907Xゲームセンター「CX」
太田出版 2004-12

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B0055BM2S2スーパーポケモンスクランブル
任天堂 2011-08-11

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クインティ』でゲームクリエイターとしてデビューした田尻氏。『ポケモン』をリリースする前に手掛けたのが『ヨッシーのたまご
B000068GV5ヨッシーのたまご
任天堂 1991-12-14

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これを作った時には、あの伝説的なゲームクリエイターとの、こんなエピソードがあったという。

田尻ヨッシーがエサを食べるっていうアイディアを任天堂横井軍平さん(当時の部長)にお見せしたんですよ。
最初はコントーラーを動かすと、エサがフラフラ動いていたんですよね。
それを見た横井さんが「受け取る方を動かしたらええんやないの」って言ってくれたんですよね。
有野:その時、横井さんに教えられたことっていうのは何ですか?
田尻:僕のオヤジくらいの年齢の人だったんですよ。
でも人柄としては全然年上じゃなくって、頭が柔軟で、心は中小企業っていうのかなぁ。
イデア一つで何かが爆発するっていうか、人に影響与えられるんや、っていうね。
イデアが浮かぶようなヒントを与えてくれるのが、凄く上手い人でしたね。
有野:『ヨッシーのたまご』でゆうたら、逆にしてみたら…みたいな一言ですね。
田尻:そうそう。好きに作らせてくれる所と、ここはこうした方がいい!っていう時のコメントの強弱がハッキリしてましたね。

近年では「任天堂のDNAを創造した人」と再評価されている横井軍平氏とのエピソード。インタビュー当時(2003年頃)は今ほどの知名度もスポットもなかったけど、要所で名前が出てくる辺り、後進へ与えた影響の大きさが伺える。
有野課長も本書のあとがきで「会ってみたかった」と記している。

4845910500横井軍平ゲーム館 RETURNS ─ゲームボーイを生んだ発想力
横井 軍平 牧野 武文
フィルムアート社 2010-06-25

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そして『ヨッシー』をリリースした後、ついに『ポケモン』の製作に取り掛かる。
その最初のアイデアというのは、ゲームボーイに搭載された「ある機能」のことだった。

田尻:「通信ゲームの可能性っていうのは絶対ある」って僕は確信を持っていまして。
有野:じゃあ『ポケモン』ってタイトルも何も無かった時期に考えてたのは「通信を使って何か」ってことだったわけですね。
田尻:はい。『ドラクエ2』で遊んでいて、凄く低い確率でラッキーなアイテムを貰えることがあって。
「ふしぎなぼうし」っていうんですが、それをウチのグラフィックの杉森は2つ持っていたけど、俺は持ってないわけ。
低い確率で貰えるから価値があるんだけど、俺には無くて、杉森は2つ持ってる。
で、「どうにかして、そのうち1つを貰えないかなあ」っていう話を、当時よくしてたの。
有野:どうにもしようが無いですよね。独立したカセットですものね。
田尻:その時の「ふしぎなぼうし、俺も欲しい」と思っていた体験と、ゲームボーイの通信機能を見た時に、「これでふしぎなぼうしのやり取りができる!」って思ったワケです。
有野:「ぼうし」じゃないですけどね
田尻:そうそう。それで、ぼうし的な「俺欲しい!」っていう物を1000個や2000個考えないといかんなあって、その時思ったんですよ。
有野:「交換通信するのはモンスターだ!」っていうことには、すぐ行き着いたんですか?
田尻:ある程度実験したんですよ。通信で欲しいと思えるようなものは何なのか。何だったら、一番そういう感情が沸き起こるか。
それだったら、ポケモンが変わった技を持っているとか、ちょっと進化して変わってる、ってことの方が分かり易くて、みんな同じ様に欲しいと思う。
交換した時に、あいつはこんな育て方をしていたのか、ということが分かれば、同じポケモンを交換しても楽しい、と。
有野:育ちが違うと、興味も沸きますしね。
田尻:そうそう。そういう方向が見えた時に、このゲームはイケそうだと思いましたね。

ポケモン』のルーツは「モンスターで何か」ではなく、「通信で何か」であり「交換したい何か」だった。そして交換する際の付加価値としてキャラクターメイキングこと「進化」の要素を加えたモンスター物になったという。
前回の『クインティ』=「めくる」のように、ここでも「通信する」「交換する」という動作がキーポイントになっている。


そして、お約束のお題。

有野ゲームクリエイターにとって必要なことって何ですか?
田尻:得意分野が2つ以上あると、クリエイターとしては、やり易い。
2つくらいあると、好きな事を仕事にしたい時に、もう1つの好きなことを上手く利用して仕事に活かすことができるって思うんですよ。
2つ以上あるって胸を張れるような人間になると、クリエイターとしてはイケるんではないでしょうか。
有野:田尻さんにとって得意分野2つっていうのは何ですか?
田尻:僕の場合でいうと、ゲームと昆虫ですかね

ゲームにハマる前は、本人曰く「子供の頃は虫博士だった」というほど虫取りにハマっていた田尻氏。
それが『ポケモン』にも活かされているという。
ゲームクリエイターに限らず「得意分野が多い」というのは、物作りに際して重要なことだと実感。


最後に、当時(2003年頃)はこんなコメントも…

有野:『ポケモン』のようなアイデアは10年に1度しか出ない、とおっしゃってましたね。
もう『ポケモン』最初の発売から8年が経過しましたが、もうそろそろ10年ですよね。
田尻:「新しいゲームはこれです!」っていうことを、あまり具体的に話すことはできないんだけど。
有野:次に作ろうと思っているゲームもやっぱり、動詞がヒントになったりしているんですか?
田尻:僕のゲームデザインの哲学でいうと、新しい動詞の提案になると思います。
有野:「これや!」っていうのは見えてるんですか?
田尻:そうですね。ゲームデザイナーとして生きていくには、新しい動詞を発見していく旅になるし、英語の動詞の表がゲームの新しいアイデアに繋がっていくとしたら、まぁ勉強する気も起きてくるから、将来のゲームデザイナーを目指す人にもお薦めしたい。

この時から、さらに約8年。しかし、『ポケモン』シリーズに続く田尻氏のゲームは作られていない。仄聞によると、今はゲームフリークの経営に専念して、クリエイター業からは離れているらしい。
このインタビューでは興味深い話を色々としていただけに残念だ。