ゲームクリエイターかく語りき5〜サクラ大戦・広井王子氏

ゲームクリエーターによる「ゲームづくりのコツ」のようなものを紹介してみる企画の5回目。


テキストとして使用する本は引き続きこちら。

487233907Xゲームセンター「CX」
太田出版 2004-12

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今まではプログラマーなど「技術者側」のインタビューを紹介してきたけど、ここからは視点を「企画者側」に変更。漫画やアニメの企画を多く手掛け、ゲームでも『サクラ大戦』というヒット作を産み出した広井王子氏のインタビューを紹介。

B0052QN92SSEGA THE BEST サクラ大戦1&2(価格改定版)
セガ 2011-07-28

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サクラ大戦』といえば「なんちゃって大正時代」こと「太正時代」を舞台にした、美少女ありメカありバトルあり歌あり踊りありな世界観。
その発想の原点とは…。

有野:なんで大正時代なんですか?
広井:歴史の教科書で大正時代を飛ばすでしょ?飛ばすから大体何をやってもわかんないんですよ。
有野:あ、何があっても?
広井:ええ、何があっても。勉強したところって色々ツッコまれるんですよ。
有野:別にツッコまれてもいいじゃないですか。フィクションやし。
広井:ツッコむとホントだったりするんですよ。ここが難しいところなんですよ。
「ホントなんだろうな」って思ってるところは大体ウソなんですよ。「ウソだぁ〜」ってとこは大体ホントなんですよ。
有野:あ、歴史上の本当のことも書いてあると。
広井:そうなんです。例えばあの…喫茶店でコカコーラ飲んでると「ウソだよ〜、大正時代に」っていうけど。これはホントなんです。
有野:あったんですか。大正時代に。
広井:ええ、あったんです。これは永井荷風の日記に書いてあるんです。「コカコーラを飲んだ」と。
割と皆が知らないだろうな、これはどう考えてもウソっぽいよな。でも本当、っていうところは入れていくんですよね。
有野:こじつけでもよかったんじゃないですか。
広井:こじつけでもいいんですけど、意外とお客さんはそういうところを喜ぶじゃないですか。
「ウソだよ」っていって「ホントだったんだ!」ってなった瞬間に全部「本当」になれるんですよね。
ファンタジーの作り方って、わりとそういう「ウソのつき方」だと思うんですけど。
有野:ディテールの部分にホンマのもんをいれていく。
広井:そうですね。ディテールのホントのことを入れていって、「ウソだ」って言ってくれることは嬉しいんですよ。で、「ホントでしょ」っていう

確かに、何から何まで嘘だらけの作り話じゃなくって、本当のことが「隠し味」のごとく織り交ぜられている世界の方が興味を惹かれる。
特にコカコーラという極めて身近で現代的イメージの飲み物が大正時代にあったなんて意外だし、そんなマニアックな要素を織り込むところに、強烈なこだわりを感じさせる。


そして巴里(パリ)が舞台の『サクラ大戦2』では、そのネタ集めも大変だったようで…。

広井:パリの方はですね、パリに住んでいるフランス人で日本語を喋れる方に協力してもらって、資料を集めています。
パリの国立図書館から、パリがどう変わっていったかという資料とかですね。
あと1920年代の広告とかも、全部コピーして日本に送ってもらって、それから作っていくんですね。
有野:そういうリサーチ用に海外に行かせるってこともあるんですか?
広井:あります。美術判も行くし、シナリオ班は「空気」を感じてくるために行くんですよね。
だから大体2年くらいかかっちゃう、1本作るのに。ずっと地道な作業です。
有野:けど、捨てるところも多いですよね。
広井:80%は捨てますね。
有野:8割も!
広井:ただ、僕たちが調べることで、実際には見えてないんだけども、見てきたみたいな間隔に陥ることは凄い大事だと思うんですよね。

苦労して集めた資料も「8割は捨てる(=ゲームには反映されない)」というのは勿体無いし、無駄な労力かと思うかもしれない。
でも作り手が「空気」を感じるためには必要不可欠であり、ゲームの世界観作りには間接的だけども反映されるという。


このこだわりは広井氏のゲームデビュー作である『天外魔境』から一貫されているものらしく、こんな話が…。

B004BX92WOPC Engine Best Collection 天外魔境コレクション ベストセレクション
ハドソン 2010-12-09

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広井:日本というのは元々拝火教じゃないのか、っていうところから始まったんです。
それはイランから流れてきた拝火教の一派がこの国を形成して、それが日本という国の大本だったんじゃないかって考えていたんです。
だから富士山信仰とか火山信仰が多いんじゃないんだろうか、ということで考え始めたんですね。
有野:ゲームでも、そういう裏設定を考えるのは大切なことなんですね。
広井:それが企画ですね。そこを厚くしておかないと。
物語ってどんどんシリーズ化したりしていくうちに設定のところの広がりがないと、もうやることが無くなっちゃう。
『天外』は企画をしてそういう設定を作るのに3年くらいかかってますからね。

なんちゃって大正時代の『サクラ』と同様に、『天外』は「なんちゃって江戸時代」ことジパングが舞台。
その世界観の裏には、様々な裏設定を積み上げていたのか。


そのアイディアは、いつどの様に考えているのかというと。広井氏はインタビューの締め括りとしてこんなことを…。

広井:例えば『サクラ大戦』を作るのにはお金を頂戴しているじゃないですか。
頂戴しているのはお客さんから頂戴してますからね。そのために全時間費やすってのが僕の考えですね。
思い浮かぶこととか、想像したこととかを、しょっちゅう書いてるんですよ。
どこでその発想を出すっていうのは関係無しに、思いつくとずーっと調べて、深夜に書いてますから。それが好きなんです。
有野:飲みに行ったりしないんですか?部下を連れてどっか行ったりとかはしないんですか?
広井:行かないですね、そんな時間はないです。部下に追い越されるじゃないですか。
有野:(笑)
広井:歳を少しとってきましたからね、昔よりも瞬発力が弱くなってるんですよ。
それだけ時間をかけて自分をトレーニングしていかなきゃいけないんで。
若い奴が「飲みに行った」って言ったら「しめた!」と思って。「俺は勉強だ」って思わないと。

アイディア作りは一日24時間、それこそ「思いついた時」に書いて調べて蓄えておくという。
それにしても、部下すら「自分を追い越す恐れのある者」として認識し、飲みに行くことすらしないなんて、結構な修羅道を進んでいる方だなぁ。